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名古屋地方裁判所 平成6年(わ)116号 判決

主文

被告人日下守を懲役一〇月に、同八神弘雄を懲役八月にそれぞれ処する。

この裁判確定の日から、被告人両名に対し三年間、それぞれの刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人日下守は、昭和五四年四月三〇日から平成五年七月四日まで愛知県議会議員であった大谷忠雄を推薦し、支持することを名目として設立された政治団体「東海政経研究会」の代表者、同八神弘雄は、同会の会計責任者であるが、右両名は、選挙管理委員会に提出された収支報告書に記載して報告された政治団体への寄附が特定寄附金として所得控除の対象となることを悪用して、毎年愛知県選挙管理委員会へ提出する「東海政経研究会」の収支報告書に虚偽の寄附金の記載をして所得税を免れることを企て、右大谷忠雄及び当時大谷の秘書であり、「東海政経研究会」の会計責任者の職務代行者であった落合進と共謀の上

第一  被告人日下及び同八神の所得税を免れようと企て、平成二年分、同三年分及び同四年分の「東海政経研究会」の愛知県選挙管理委員会に提出した収支報告書中に記載されているとおり、同人らが寄附金を支出したものとして、愛知県選挙管理委員会から交付された寄附金控除のための書類を利用して、同人らが政治団体に対し、所得控除の対象となる特定寄附金を支出したように装う方法により所得の一部を秘匿した上

一  被告人日下の平成二年分の実際に課税されるべき所得金額は四七五九万六〇〇〇円、これに対する所得税額は一九八四万五〇〇〇円、所得税額から納付済みの源泉徴収税額を控除した申告納税額は六七万八七〇〇円であったのにかかわらず、平成三年二月二八日、名古屋市瑞穂区瑞穂町字西藤塚一番地の四所在の昭和税務署において、同税務署長に対し、架空の寄附金控除額を計上した上、課税される所得金額は四六〇九万六〇〇〇円、これに対する所得税額は一九〇九万五〇〇〇円、確定申告に基づく申告納税額はマイナス七万一二〇一円である旨の記載をした虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって右不正の行為により同年分の正規の納税額と虚偽過少申告にかかる納税額との差額七四万九九〇〇円を免れ

二  同日下の平成三年分の実際に課税されるべき所得金額は五六八〇万五〇〇〇円、これに対する所得税額は二四四一万一九八円、所得税額から納付済みの源泉徴収税額を控除した申告納税額はマイナス四三万八一一二円であったのにかかわらず、平成四年三月一〇日、右昭和税務署において、同税務署長に対し、架空の寄附金控除額を計上した上、課税される所得金額は五五三〇万五〇〇〇円、これに対する所得税額は二三六六万一九八円、確定申告に基づく申告納税額はマイナス一一八万八一一二円である旨の記載をした虚偽過少の所得確定申告書を提出し、もって右不正の行為により同年分の正規の納税額と虚偽過少申告にかかる納税額との差額七五万円を免れ

三  同日下の平成四年分の実際に課税されるべき所得金額は五三六三万八〇〇〇円、これに対する所得税額は二二八四万三三五八円、所得税額から納付済みの源泉徴収税額を控除した申告納税額はマイナス七万五〇四五円であったのにかかわらず、平成五年三月四日、右昭和税務署において、同税務署長に対し、架空の寄附金控除額を計上した上、課税される所得金額は五二一三万八〇〇〇円、これに対する所得税額は二二〇九万三三五八円、確定申告に基づく申告納税額はマイナス八二万五〇四五円である旨の記載をした虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって右不正の行為により同年分の正規の納税額と虚偽過少申告にかかる納税額との差額七五万円を免れ

四  被告人八神の平成二年分の実際に課税されるべき所得金額は九八一万七〇〇〇円、これに対する所得税額は二〇四万五一〇〇円、所得税額から納付済みの源泉徴収税額を控除した申告納税額は一万二〇〇円であったのにかかわらず、平成三年三月一五日、名古屋市熱田区花表町七番一七号所在の熱田税務署において、同税務署長に対し、架空の寄附金控除額を計上した上、課税される所得金額は八三二万七〇〇〇円、これに対する所得税額は一五九万八一〇〇円、確定申告に基づく申告納税額はマイナス四三万六八〇〇円である旨の記載をした虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって右不正の行為により同年分の正規の納税額と虚偽過少申告にかかる納税額との差額四四万七〇〇〇円を免れ

五  同八神の平成三年分の実際に課税されるべき所得金額は九三四万円、これに対する所得税額は一九〇万二〇〇〇円、所得税額から納付済みの源泉徴収税額を控除した申告納税額はマイナス一一万五八〇〇円であったのにかかわらず、平成四年三月一六日、右熱田税務署において、同税務署長に対し、架空の寄附金控除額を計上した上、課税される所得金額は七八五万円、これに対する所得税額は一四五万五〇〇〇円、確定申告に基づく申告納税額はマイナス五六万二八〇〇円である旨の記載をした虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって右不正の行為により同年分の正規の納税額と虚偽過少申告にかかる納税額との差額四四万七〇〇〇円を免れ

六  同八神の平成四年分の実際に課税されるべき所得金額は一六三三万五〇〇〇円、これに対する所得税額は四五六万九五〇〇円、所得税額から納付済みの源泉徴収税額を控除した申告納税額はマイナス二万八五〇〇円であったのにかかわらず、平成五年三月一五日、右熱田税務署において、同税務署長に対し、架空の寄附金控除額を計上した上、課税される所得金額は一四八四万五〇〇〇円、これに対する所得税額は三九七万三五〇〇円、確定申告に基づく申告納税額はマイナス六二万四五〇〇円である旨の記載をした虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、もって右不正の行為により同年分の正規の納税額と虚偽過少申告にかかる納税額との差額五九万六〇〇〇円を免れ

第二  一 別表一「納税義務者」欄記載の河合敏秀ほか一五名と更に各共謀の上(但し、同表番号7の丹羽孝爾については、「東海政経研究会」に対する架空の寄附金一五〇万円の限度で共謀)、同人らの平成二年分の所得税を免れようと企て、同年分の前記「東海政経研究会」の収支報告書中に記載されているとおり、同人らが寄附金を支出したものとして、愛知県選挙管理委員会から交付された寄附金控除のための書類を利用して、同人らが、政治団体に対し、所得控除の対象となる特定寄附金を支出したように装う方法により所得の一部を秘匿した上、同人らの同年分の実際に課税されるべき所得金額、これに対する所得税額及び納付済みの源泉徴収額を控除した申告納税額は、それぞれ同表「正当税額等『課税される所得金額』、『所得税額』、『納付税額』」の各欄記載のとおりの額であったのにかかわらず、同表「申告年月日」欄記載の各日時において合計一六回にわたり、同表「申告書提出税務署」欄記載の各税務署において、各税務署長に対し、各納税義務者において、それぞれ架空の寄附金控除額を計上した上、課税される所得金額、これに対する所得税額及び所得納付税額はそれぞれ同表「所得税確定申告状況『課税される所得金額』、『所得税額』、『納付税額』」各欄記載のとおりである旨の記載をした虚偽過少の所得税確定申告書を各提出し、もって右不正の行為により、同表「ほ脱額」欄記載のとおり、同年分の正規の納税額と虚偽過少申告にかかる納税額との差額(合計一〇二三万九五〇〇円)を免れ

二 別表二「納税義務者」欄記載の谷澤光治ほか一六名と更に各共謀の上(但し、同表番号9の丹羽孝爾及び同番号13の宮下幸二郎については、いずれも「東海政経研究会」に対する架空の寄附金一五〇万円の限度で共謀)、同人らの平成三年分の所得税を免れようと企て、同年分の前記「東海政経研究会」の収支報告書中に記載されているとおり、同人らが寄附金を支出したものとして、愛知県選挙管理委員会から交付された寄附金控除のための書類を利用して、同人らが、政治団体に対し、所得控除の対象となる特定寄附金を支出したように装う方法により所得の一部を秘匿した上、同人らの同年分の実際に課税されるべき所得金額、これに対する所得税額及び納付済みの源泉徴収税額を控除した申告納税額は、それぞれ同表「正当税額等『課税される所得金額』、『所得税額』、『納付税額』」の各欄記載のとおりの額であったのにかかわらず、同表「申告年月日」欄記載の各日時において合計一七回にわたり、同表「申告書提出税務署」欄記載の各税務署において、各税務署長に対し、各納税義務者において、それぞれ架空の寄附金控除額を計上した上、課税される所得金額、これに対する所得税額及び申告納付税額はそれぞれ同表「所得税確定申告状況『課税される所得金額』、『所得税額』、『納付税額』」各欄記載のとおりである旨の記載をした虚偽過少の所得税確定申告書を各提出し、もって右不正の行為により、同表「ほ脱額」欄記載のとおり、同年分の正規の納税額と虚偽過少申告にかかる納税額との差額(合計一一四五万四八〇〇円)を免れ

三 別表三「納税義務者」欄記載の祖父江義弘ほか一四名と更に各共謀の上、同人らの平成四年分の所得税を免れようと企て、同年分の前記「東海政経研究会」の収支報告書中に記載されているとおり、同人らが寄附金を支出したものとして、愛知県選挙管理委員会から交付された寄附金控除のための書類を利用して、同人らが、政治団体に対し、所得控除の対象となる特定寄附金を支出したように装う方法により、所得の一部を秘匿した上、同人らの同年分の実際に課税されるべき所得金額、これに対する所得税額及び納付済みの源泉徴収税額を控除した申告納税額は、それぞれ同表「正当税額等『課税される所得金額』、『所得税額』、『納付税額』」の各欄記載のとおりの額であったのにかかわらず、同表「申告年月日」欄記載の各日時において合計一五回にわたり、同表「申告書提出税務署」欄記載の各税務署において、各税務署長に対し、各納税義務者において、それぞれ架空の寄附金控除額を計上した上、課税される所得金額、これに対する所得税額及び申告納付税額はそれぞれ同表「所得税確定申告状況『課税される所得金額』、『所得税額』、『納付税額』」各欄記載のとおりである旨の記載をした虚偽過少の所得税確定申告書を各提出し、もって右不正の行為により、同表「ほ脱額」欄記載のとおり、同年分の正規の納税額と虚偽過少申告にかかる納税額との差額(合計九五五万五六〇〇円)を免れたものである。

(証拠の標目)

(括弧内の甲乙の番号は記録中の証拠等関係カードの検察官請求番号を示す。)

判示全事実について

一  被告人両名の当公判廷における供述

一  被告人日下守の検察官に対する各供述調書(乙1ないし3)

一  被告人八神弘雄の検察官に対する各供述調書(乙6、7)

一  第二回公判調書中証人宮下幸二郎の供述部分

一  第二回公判調書中証人丹羽孝爾の供述部分

一  吉川弘春(四通)、落合進(一二通)、大谷忠雄(三通)、大野一成及び宮下幸二郎の検察官に対する各供述調書謄本(甲5ないし23、25、60)

一  愛知県議会事務局長作成の「捜査関係事項について(回答)」と題する書面(甲2)

一  愛知県選挙管理委員会事務局長作成の「捜査関係事項について(回答)」と題する書面(甲4)

判示第一、一ないし三の各事実について

一  名古屋国税局収税官吏大蔵事務官浅村孝司作成の査察官調査書謄本(甲26)

判示第一、四ないし六の各事実について

一  前記浅村孝司作成の査察官調査書謄本(甲27)

判示第二の各事実について

一  児玉章、西野隆夫、祖父江義弘、成田稔男、丹羽孝爾、木下良介、長谷川嘉和、谷澤光治、森田元夫、水野勤、今枝隆夫(二通)、川村敏雄、河村富正及び長谷川士郎の検察官に対する各供述調書謄本(甲47、49ないし59、61ないし63)

一  前記浅村孝司作成の各査察官調査書謄本(甲29、31ないし43)

判示第二、一及び二の各事実について

一  河合邦明の検察官に対する供述調書謄本(甲48)

一  前記浅村孝司作成の査察官調査書謄本(甲30)

判示第二、一事実について

一  河合敏秀の検察官に対する供述調書(甲46)

一  前記浅村孝司作成の査察官調査書謄本(甲28)

判示第二、二及び三の各事実について

一  前記浅村孝司作成の査察官調査書謄本(甲44)

判示第二、二事実について

一  今枝としの検察官に対する供述調書(甲64)

一  前記浅村孝司作成の査察官調査書謄本(甲45)

(争点に対する判断)

一  被告人日下及び八神の共同正犯の成立について

1  弁護人は、被告人両名が大谷忠雄(以下、「大谷」という。)、落合進(以下、「落合」という。)と共謀の上、それぞれ自己の所得税を脱税した点については認めるものの、さらに別表一ないし三記載の者らと共謀の上、右の者らに脱税させた事実はないとして、被告人両名の共同正犯の成立を争うので、以下、この点については裁判所の判断を示す。

2  前掲関係各証拠によれば、判示東海政経研究会の設立に至る経緯等につき、次の各事実を認めることができる。

(一) 被告人両名は、名古屋青年会議所(JC)の元会員のうち、昭和一〇年亥年生まれの者たちで結成された拾亥志会(といしかい)の会員であり、大谷も同会の会員であるが、同会は年に二、三回会員の親睦を図るために忘年会などの催しを行い、昭和五四年に大谷が愛知県議会議員に初当選してからは、忘年会席上などで大谷から愛知県政に関する話を聞き、県政についての情報を得るなどの活動もしていた。

(二) 昭和六一年一一月五日に催された拾亥志会の彦根方面への家族旅行会の帰路、彦根から米原へ向かう列車の車中において、大谷が隣席に座っている被告人八神らに対し、「私も拾亥志会でよく話をしているが、少し資金的にバックアップして欲しいんだがな。その代わり、献金してくれれば、税の控除が受けられ、節税をするという方法があるんだ。一人一〇万円くらいでいいんだ。年に一回でいいんだ。いっぺん、よく考えてみてちょう。」などと自分への政治献金の要請をした。この話を側で聞いていた拾亥志会会員宮下幸二郎が被告人八神に対し、「八神さん、今の話は日下さんに相談せなあかんな。」などと言うと、同被告人は「そうですね。僕から日下さんに連絡しておきます。」とこれに同意し、さらに大谷に対し、「先ほどの話は日下さんに言った方がいいですよ。僕からも連絡しておきます。」などと話した。

(三) その後、被告人八神は、同日下に電話を架け、「大谷さんから政治献金をすれば節税できるという話があると思う。拾亥志会の会員でやらないかということだ。たぶん大谷さんが訪ねていくだろう。」と話をしたところ、被告人日下は大谷から最初に政治献金の話を受けたのは被告人八神であるから、同被告人にも一緒に話を聞いてもらおうと考え、「そのときはあなたも来てくれ。」と答えた。

(四) 同月二八日朝、大谷から被告人日下に対し、当日の午前一〇時に被告人日下の経営する名古屋市中区所在の不動産会社地上社を訪れる旨の連絡が入ったため、同被告人は直ちに被告人八神に連絡し、地上社において大谷と三人で話合うことを決めた。同日午前一〇時過ぎころ、右三名が地上社に集まり、大谷が、被告人両名に対し、「政治献金のことだけど。とりあえず一〇万円出してもらえないか。そうすれば一五〇万円の領収証を出す。それで税金の控除が受けられる。出してもらったお金よりも節税になるよ。私の方もそれで資金が集まって助かるから、拾亥志会の方に話を通してもらえないか。」などと政治献金にからむ脱税の話を持ちかけたところ、これを聞いた被告人日下は、そのような方法は脱税になるのではないかと危惧し、大谷に対し、「そんなことでいいのか。」と尋ねたが、大谷は、「よそもそういうことでやってきているから。それで心配をかけるようなことはないから。」などと答えたため、被告人日下は大谷の申し入れを受諾した。さらに大谷は、「税金の控除を受けるには、政治団体の届出がいるから、会を作らないといけない。」などと言った上、政治団体の届出をすれば課税上の優遇措置が受けられることを説明し、「日下さんと八神さんで政治団体の世話人をやってもらえないか。事務的なことは日下さんの方でやってもらえるか。こちらの方は、細かいことは秘書の落合に任せるから。」などと依頼すると、被告人両名は世話人になることを了承し、さらに被告人日下は、「世話人は引き受けるから、事務的なことはうちの総合企画室長の吉川にやらせる。」と答えた。その後、大谷及び被告人両名は、同年一二月一九日に名古屋市東区所在の東桜庵において催される予定の拾亥志会忘年会の席上で、政治献金とそれに伴う脱税の件について正式に拾亥志会会員に諮ること、政治団体設立に関する詳細な打ち合わせをするため近日中に落合を地上社に寄越すことなどを話し合った。

(五) 右地上社での話し合いの数日後、大谷から「拾亥志会の皆さんから寄附をしてもらうことになった。一〇万円ずつ寄附をしてもらって一五〇万円の領収証を切ってやり、税金が安くなるようにしてやらにやいかんから、政治団体を作らにやいかん。話はついているから、日下さんの会社へ行って細かいところを詰めてきてくれ。」との指示を受けた落合が地上社を訪れ、被告人日下に対し、寄附金控除を受けるためには選挙管理委員会の確認印のある政治団体の領収証を確定申告書に添付しなくてはならず、そのために政治団体の設立届けを出す必要があること、新たに政治団体を設立して、そこに一〇万円の寄附をすれば、一五〇万円の領収証をもらえることなどをあらためて説明した上、政治団体の名称を「東海政経研究会」と決めた。代表者を被告人日下、会計責任者を被告人八神とし、集金などの実務的なことは地上社の吉川弘春(以下、「吉川」という。)がすることなどを確認し、被告人日下は、地上社総合企画室長吉川弘春及び秘書の永坂恵美を落合に紹介し、右吉川らに、「拾亥志会という会があり、そこで東海政経研究会という会を作って大谷を引き立てるのに一人一〇万円ずつ寄附をするから、それを集めてくれ。私が代表者になるから、今後それらの事務をやってもらうことになるから。」などと説明した。

(六) 同年一二月一九日、前記東桜庵で催された拾亥志会忘年会席上において、被告人日下は幹事に続いて挨拶し、その際、会員に対し、大谷を金銭的にバックアップする件について話があるなどと言って大谷の秘書として落合を紹介した。落合は、その席上、「一〇万円を出して下さい。そうしますと、選挙管理委員会の確認印のある一五〇万円の領収証を送ります。それを用いて確定申告すれば、寄附金控除が受けられます。一〇万円以上の税金の還付を受けられます。ただ、税金の控除を受けるためには政治団体の届け出が必要ですのでその会を作らないといけません。名前は東海政経研究会にし、世話役は日下さんと八神さんにお願いします。東海政経研究会の銀行口座を後で皆さんの所に郵送でお知らせしますから、ご賛同の方は振り込んでください。ただ税務署の調査があったときにばれないように、本当に一五〇万円寄附したようにするため、年内に預金から一五〇万円引き出した形をとっておいて下さい。」などと拾亥志会会員に対して説明をすると、会員らがこれを了承した。献金に賛同した会員らは、後日連絡された東海政経研究会の口座に各自一〇万円ずつ振込入金したが、翌年以降は東海政経研究会親睦会に出席した会員については、席上において日下あるいは吉川が直接会費とともに一〇万円を受け取り、欠席した会員については振込入金する方法により献金するようになった。こうして集められた金員は、献金者の名簿と共に大谷側に渡された。

(七) 被告人日下から指示を受けた吉川は、東海政経研究会に対する寄附金の振込先として、昭和六一年一二月一九日、中央相互銀行(現愛知銀行)金山支店に東海政経研究会代表者日下靖浩(日下靖浩は被告人日下守の通称)名義の普通貯金口座を開設し、同月二二日ころ、被告人日下から渡された拾亥志会会員の名簿に記載されている各会員に右口座番号を通知するための案内状を郵送した。落合は、同月二四日に東海政経研究会(事務所所在地は地上社と同じ、代表者日下守、会計責任者八神弘雄、会計責任者の職務代行者落合進)を政治団体として愛知県選挙管理委員会に届け出た。その後、吉川は、被告人日下の指示に従い、東海政経研究会の案内状を作成、送付したり、昭和六二年以降の東海政経研究会親睦会において各会員から寄附金を集めたり、落合から手渡しあるいは郵送されてくる選挙管理委員会の確認印のある寄附金控除のための書類を各献金者に郵送したり(但し、平成四年度分の寄附金控除のための書類は、吉川を介さず、落合から直接郵送されている。)、落合から連絡されたとおり、選挙管理委員会から東海政経研究会事務所宛に送付される収支報告書の用紙を落合に郵送するなど事務的な仕事を行った。

落合は、東海政経研究会の名で集められた金員の管理を行うほか、毎年愛知県選挙管理委員会へ提出する収支報告書を作成したり、選挙管理委員会から寄附金控除のための書類を受け取ってきていたが、政治資金規正法上要求されている会計帳簿類を一切作成保存していなかった。

(八) 昭和六二年の一月か二月ころ、被告人八神は、落合から愛知県選挙管理委員会に収支報告書と共に提出する会計責任者宣誓書に押印してほしい旨の連絡を受け、これを持参した落合に自己の印鑑を手渡して押印させた。以後、平成三年度分までの宣誓書をいずれも同様にして作成した後(なお、被告人八神は、自分自身の都合が悪いときには、自分の妻に印鑑を預け、落合の持参した宣誓書に押印させている。)、平成四年度分以降は、落合に自己の印鑑を預け、宣誓書を作成した。

(九) 東海政経研究会設立当初は、原則として拾亥志会会員のみに脱税させる予定であったものの、昭和六二年ころ、東海政経研究会会員から要望があり、被告人日下は落合と相談し、拾亥志会会員の了承を得て、会員の身内であれば東海政経研究会に参加しうることとし、昭和六三年の親睦会の案内にその旨明記した。以後、本件脱税の仕組みを利用しようとした拾亥志会がその親族や友人の献金を仲介するようになった。

(一〇) 判示事実中別表一ないし三の「納税義務者」欄に記載された者は、いずれも右拾亥志会の会員もしくは会員の親族、友人であり、前記に判示した脱税の仕組みを利用して各自一〇万円の献金を行い、前記落合を介して選挙管理委員会の確認印のある寄附金控除のための書類を入手し、右書類を確定申告の際添付するなどして判示のとおり所得税をほ脱していた。

(一一) 東海政経研究会の人件費、光熱費等の経費はすべて前記地上社が負担している上、設立以後、年一回開催される東海政経研究会親睦会の席上で「税務講座」と称して拾亥志会の会員から各自一〇万円の献金を集めること以外、東海政経研究会は、何ら大谷議員に対する具体的支援活動を一切行っていない。

3  拾亥志会会員たちが政治団体への特定寄附金として所得控除を受けるためには、政治団体東海政経研究会を設立して、選挙管理委員会の確認印のある寄附金控除のための書類を入手することが必要不可欠であり、したがって本件における一連の脱税行為の手段として東海政経研究会の設立が極めて重要であるところ、前記2で記述したとおり、被告人両名は、当初から東海政経研究会設立の経緯に大谷、落合と共に深く関与したばかりでなく、それぞれ同会の代表者、会計責任者となり、同会による集金や脱税工作に関与し、しかも同会を利用した脱税に他の拾亥志会会員たちを誘い込んでいるのである。即ち、被告人両名は、大谷、落合と共謀して、東海政経研究会なる政治団体を設立し、拾亥志会会員たちに一五〇万円の寄附金控除の利得を得させることを前提に、同会への一〇万円の献金を勧誘することを企てた上、東桜庵での忘年会の席上において右会員たちに右のような方法による脱税を呼びかけ、会員たちの賛同を得、更に被告人日下は部下の吉川らを使うなどして一〇万円ずつの献金の集金などを、被告人八神は脱税の手段となる寄附金控除のための書類を受け取るために必要不可欠な選挙管理委員会へ提出する収支報告書に添付する会計責任者の宣誓書への押捺を、それぞれ行い、判示各犯行に至っているのである。したがって、被告人両名は、被告人らの誘いに応じ本件脱税に加わった被告人両名以外の拾亥志会会員らと同視することはできない立場にある。

被告人両名の右のような関与状況に照らすと、被告人両名は自己の脱税を大谷、落合と共謀したばかりでなく、東海政経研究会を利用して脱税を行った他の拾亥志会会員各自ともそれぞれの脱税を共謀したものと判断するのが相当である。

なお、判示第二事実中、拾亥志会会員以外で本件脱税に加わった五名の者がいるが、そのうち河合敏秀、河合邦明、長谷川嘉和及び今枝としの四名については、拾亥志会会員の身内として、水野勤については、拾亥志会会員の友人としてそれぞれ拾亥志会会員から紹介を受け、脱税目的の献金をする目的で東海政経研究会に参加したものであるが、被告人両名とも右五名の参加を認識認容していたことが認められるから、これらについても共謀共同正犯が成立する。

弁護人は、被告人両名につき幇助犯が成立する可能性があるに過ぎない旨反論するが、以上の確定事実に照らし、右反論は失当である。

4  ところで、前記関係証拠によれば、判示第二、一別表一の番号7及び同二別表二番号9の丹羽孝爾並びに判示第二、二別表二の番号13の宮下幸二郎については他の政治団体(丹羽孝爾については、平成二年分として「昭和会」及び同三年分として「康友会」に各一五〇万円、宮下幸二郎については「愛港会」に八〇万円、「港政経調査会」に七〇万円)に対する献金を名目として控除を受けたことによる脱税分が含まれているが、右各部分については前記東海政経研究会とは無関係なものであり、被告人両名との共謀があったと認められる証拠はないから、これを除いた金額の範囲で被告人両名との共謀を認める。

5  なお、弁護人は所得税ほ脱犯の法的性質に関し、所謂自手犯であって共同正犯が成立する余地はない旨主張するが、所得税ほ脱犯において、犯罪の主体たりうる者は所得税納税義務者という特殊の地位にあることが犯罪の構成要件として要求されることから、同罪は犯人の身分により構成すべき犯罪に当たると解されるところ、真正身分犯においては、身分のない者であっても刑法六五条一項により、その共同正犯たり得ると解されるから、納税義務者以外の者が納税義務者に加担した場合にも共同正犯が成立する。これに反する弁護人の主張は採用することが出来ない。

以上のように、弁護人の主張にはいずれも理由がなく、被告人両名につき、判示のとおり共同正犯の成立が認められる。

二  被告人らが東海政経研究会に対してなした一〇万円の政治献金に関する租税特別措置法上の寄附金控除制度の適用について

1  弁護人は、被告人両名及び判示各別表寄附名義人欄記載の各献金者が、東海政経研究会を通じてなした一〇万円の献金は、政治資金規正法の規定するところの政治団体に対する正当な寄附金に該当するから、平成五年法律第六八号による改正前の租税特別措置法四一条の一六の適用を受け、所得税法七八条一項(二項一号)によって、各人の課税されるべき総所得金額から控除されるべきである旨主張するので、この点につき判断する。

2  そもそも、政治団体に対して金員を出捐した場合であっても、当然にこれが所得税法上所得控除の対象とされるものではなく、その寄附が法律の定める要件を充たして初めて所得控除の対象となるに過ぎない。

個人の政治献金については、右租税特別措置法四一条の一六第一項が「政治資金規正法四条四項に規定する政治活動に係る寄附をした場合には、当該寄附に係る支出金のうち、次に揚げる団体に対するもので、(同法)第十二条又は第十七条の規定による報告書により報告されたもの…は、所得税法第七八条第二項に規定する特定寄附金とみなす」と規定し、選挙管理委員会に提出された収支報告書に記載して報告され、公開されたもので政治団体等に対するもののみを特定寄附金とみなして所得控除の特典を与えているところ、政治資金規正法一条が「政治資金の収支の公開及び授受の規正その他の措置を構ずることにより、政治活動の公明と公正を確保し、もって民主政治の健全な発達に寄与することを目的とする。」と定め、同法二条二項が「政治団体は、…政治資金の収受に当たっては、いやしくも国民の疑惑を招くことのないように、この法律に基づいて公明正大に行わなければならない。」と定めていること等に鑑みれば、同法一二条の収支報告書に、その寄附金額、寄附年月日について、少なくともその同一性が分かる程度に客観的真実に合致して記載された寄附のみは特定寄附金とみなされ、租税特別措置法上の優遇措置を受けるものと解される。

ところで、前記関係証拠に照らすと、東海政経研究会の実質的会計責任者である落合進は、政治資金規正法上要求される政治団体の収支に関する帳簿等を一切付けておらず、形式的には選挙管理委員会に提出する収支報告書を作成していたもであり、しかもその収入・支出など具体的な報告内容の記載は客観的な資料に基づかない全く虚偽のものであることが認められるのであり、被告人両名を含めた本件脱税に関与していた者たちの献金についても、献金額の一五倍の献金として報告し、寄附金控除のための書類を受け取っていたのである。そうすると、右のように法の趣旨、目的を全く無視して極端に寄附年月日、寄附金額につき、客観的事実に反する虚偽事実を記載した収支報告書で報告された寄附についてまで法の定める特定寄附金とみなすことは国民の健全な規範意識に反し、到底許されないものといわざるをえない。

3  また、前記認定事実に照らせば、被告人両名を含む拾亥志会会員たちは、大谷の依頼に応じ、集団的に東海政経研究会を利用して、政治団体への特定寄附金制度を悪用して一〇万円の献金をし、一五〇万円の寄附金控除のための書類を受け取り、これを用いて脱税していたのである。すなわち、被告人両名及び本件拾亥志会関係者の行った献金は、脱税に利用する寄附金控除のための書類をもらうための手段として行われたものであり、言ってみれば右両者は密接な対価的牽連関係を有していたのである。

このように、本件献金はいずれも脱税という犯罪を目的としたものであるから、かかる献金を、課税上の優遇措置の対象となる「政治活動に関する寄附」として課税所得額から控除される特定寄附金とみなすことは、国民の健全なる法感覚から到底許されないものというべきである。

以上、いずれの観点から考えても弁護人の主張に左袒することはできない。

(法令の適用)

被告人両名の判示各所為は、各年度における各納税義務者ごとに、いずれも刑法六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項にそれぞれ該当するところ、各所定刑中懲役刑をそれぞれ選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、犯情の最も重い判示第一、一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人日下を懲役一〇月、同八神を懲役八月にそれぞれ処し、情状により、同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から、被告人両名について三年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

一  本件は、当時愛知県議会議員であり、現在衆議院議員である大谷忠雄と、名古屋青年会議所(同会を卒業後は昭和一〇年生まれの有志により「拾亥志会」を設立。)を通じて以前から親交のあった被告人両名が、大谷から脱税を前提とする政治献金の依頼を受けて了承し、献金すれば献金額よりも多額の税金の還付を受けられ、節税になるなどと拾亥志会会員らに脱税を勧誘すると共に、被告人らが世話役を引き受けて、献金の受け皿となる新しい政治団体「東海政経研究会」を作り、拾亥志会会員及びその親族などを中心に、右東海政経研究会を利用して集団的に脱税を行ってきたという事案である。

二  被告人両名は、献金をすれば節税になるという大谷の言葉から、脱税行為であることに気づいていたにもかかわらず、よそもやっていることであり、政治家のいうことだから大丈夫だなどと大谷の言葉を自己の利益のために都合のいいように解釈した挙げ句、大した罪の意識もないままに脱税の手段である東海政経研究会の設立に深く関わり、その後も同会を利用した脱税に携わっていたのであり、脱税による利得を目的とした本件犯行の動機には全く酌むべき点はない。本来公明正大に行われるのが故に優遇されているはずの政治献金の授受に関する税法上の特別措置を悪用して、集団的かつ組織的に脱税すべく全く実体のない政治団体を設立し、国民の基本的な義務の一つである納税において長期間にわたって継続的に不正を働くなど、その手口も巧妙かつ悪質であり、被告人両名の行為は決して許されるものではない。

また、本件における脱税者は被告人両名を含めて三年間で延べ五四人、脱税額の総額は約三五〇〇万円に上るものであり、政治家が関与した脱税事件として各種マスコミ報道等を通じ、本件犯行が社会に及ぼした悪影響も大きい。被告人両名は、社会的に地位や責任のある者たちであるにもかかわらず、犯罪という意識も希薄なまま、本件のような悪質な脱税行為を繰り返すなど、納税に対する規範意識も低く、厳しい非難を免れない。

その上、被告人らは、本件発覚後においても、他の拾亥志会会員らと連絡を取り合うなどして、大谷に責任が及ばないように話し合うなど、罪証隠滅工作を行っており、犯行後の情状も芳しくない。

さらに、各被告人についてみても、被告人日下は、東海政経研究会の世話役を引き受けたばかりか、設立後は同会の代表者に就任し、自己の部下を使い、当時大谷の秘書であった落合と通じて、同会の運営に関与し、本件脱税において終始積極的に会員らの取りまとめを行い、一方被告人八神は、同会に設立当初から関与した上、同会の会計責任者として、脱税の手段たる不正行為の欠くことのできない収支報告書に添付する宣誓書に自己の印を押捺するなど、いずれも本件犯行において重要な役割を果たしているのであって、両名の刑事責任は重いといわざるを得ない。

三  しかしながら、本件は、当時県議会議員であった大谷が、保守系県議会議員の間で広く行われていた架空領収証の授受による脱税(いわゆる回し献金)の方法を一般の個人献金者との間にも利用して自己の政治資金を調達しようと考え、組織的に多額の献金を集めるために拾亥志会を利用したものであり、大谷及び秘書の落合進が本件犯行における主導的な役割を果たしていたことは明らかであって、被告人両名は大谷から話を持ちかけられ、古くからの友人である大谷を支援することにもなるばかりか、自己の税金も少なくなるなどと軽率に考えて犯行に加わったもので、本件全体の構造からみれば追従的に関与したにとどまるといえなくはない。

また、被告人両名は、本件に関する各種マスコミ報道等の影響により、各種の公職及び会社役員などを辞任せざるをえない状況に追い込まれ、犯行当時在職していた公職、役職を辞任するなど、すでに相当の社会的な制裁を受けている上、被告人両名を含めた本件脱税者は、いずれも修正申告を済ませ、延滞税及び重加算税を納付しており、遅ればせながら納税の義務を果たしていること、被告人八神はこれまでに前科・前歴がなく、同日下も交通関係の罰金前科があるに過ぎないこと、当公判廷において、被告人両名とも自己の脱税については素直にその事実を認め、深く悔恨するなど反省の情が窺われること、特に、被告人八神についてみると、東海政経研究会の会計責任者としての責任は決して軽くはないものの、実質的な会の運営にはほとんど関わっておらず、被告人日下に比べるとその関与の度合いは低いことなど、被告人両名についてそれぞれ有利な事情が認められる。

四  そこで、以上の有利不利な情状をすべて勘案した上で、被告人両名に対し、それぞれ主文の刑を科し、その刑の執行を猶予することにした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 笹本忠男 裁判官 田邊三保子 裁判官 竹下雄)

別表1

別表2

別表3

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